大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)34号 判決

原告 鈴木義明

被告 竹内熙佐男

一、主  文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「特許庁が昭和二十五年抗告審判第一五一号事件について昭和二十六年十一月五日なした審決はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因及び被告の抗弁に対する主張として、次の通り陳述した。

特許庁は抗告審判請求人(本件被告)竹内熙佐男と抗告審判請求人(本件原告)鈴木義明との間の昭和二十五年抗告審判第一五一号事件について昭和二十六年十一月五日「原審決を破毀する、(イ)号図面及びその説明書に示す瓦斯発生炉は特許第一七九五四三号の特許権の範囲に属しない、審判及び抗告審判の費用は抗告審判請求人の負担とする」との審決をなしたが、その理由とするところは「抗告審判請求人(本訴被告)が当審で訂正した(イ)号図面は、審判請求当初に提出した(イ)号図面中着火器(D)の内筒先端部の切断面の一部に補足的に影を附したに過ぎないもので、要旨の変更とは認められないから、これを採用する、そして該(イ)号図面及びその説明書に関し抗告審判被請求人は着火器のの構造作用が不明確であるから本件審判請求は対象物が不確定で却下せらるべきであると主張しているが、本件に於ては着火器のの詳細な構造作用如何は附随的事項であつて、これを審判請求の対象物としているのではなく、しかも、該部の構造作用は(イ)号図面及びその説明書の記載によつて概ね明確であるから本件審判請求の対象物は確定したものと認める、次に抗告審判請求人が本件審判請求をなすについて利害関係を有するか否かは当事者間に争の存する所であるから、此点について審理するに、抗告審判請求人が(イ)号図面及びその説明書に示す瓦斯発生炉を製作、営業していることは当審で提出した甲第三号証によつてこれを認めることができるから、抗告審判請求をなすについて利害関係を有するものとする、よつて以下、本案に入つて審理する、本件特許発明の要旨が上部を漏斗形となし、該位置に自由に大気に通ずる羽口を設け、その下部絞り部に点火送風口を設け、該送風口は始動再始動送風時のみ開きその他の場合は完全閉止する如くなし、燃焼室全内面を耐火材を以て内張りした薪瓦斯発生炉に在ることは明細書の記載から明らかである、次に(イ)号図面及び説明書に記載の瓦斯発生炉は炉体を中央搾小部(A)によつて空気室(3)及び吸気孔(4)を有する酸火室(B)と、耐火壁(5)を有する還元室(C)とに区劃構成し、酸化室(B)は導風管(7)により又還元室(C)は導風管(8)によつて夫々着火器(D)に接続し、該着火器(D)は内外二重筒より成り、その内筒に点火材を容れて送風することにより両導風管(7)(8)に噴焔して酸化室(B)及び還元室(C)に同時に点火せしめ、還元室(C)への送風は適時之を遮断しうるようになしたものである。そこで右両名を対比するに前者即ち本件特許発明の要旨中、「炉体の上部を漏斗形とし該位置に自由に大気に通ずる羽口を設け」た点は、後者の吸気孔(4)を有する酸化室(B)に相当し又前者で「下部絞り部に点火送風口を設け該送風口は始動再始動送風時のみ開きその他の場合は完全閉止する如くなし」た点は、後者に於て還元室(C)を導風管(8)で着火器(D)に接続して点火送風せしめ且その送風を適時遮断しうるようにしたのと、その導風管の開口位置が多少相違する点を除いては概ね同様であり、従つて右二点だけを他の部分から切離して考えれば、両者は共通すると認められないことはない、然しながら前者が始動時の点火送風を絞り部に設けた点火送風口だけで行うようにしたのに対し、後者が酸化室(B)及び還元室(C)の両室を夫々導風管(7)及び(8)で着火器(D)に連結することによつて単に還元室(C)のみならず同時に酸化室(B)にも点火送風しうるようにしたことは、両者間の重要な相違点で、これにより後者は前者に比して、その着火所要時間エンヂン始動時間を短縮し得、且始動時の瓦斯量豊富なる事等の効果があるものと認められるから仮令両者間に前記のような部分的共通点があるとしても両者を同一視することは妥当でない、又比較的些細な点ではあるが、前者が燃焼室全内面を耐火材で内張りした点を要旨の一部とするのに対し、後者は還元室(C)のみに耐火壁(5)を有し、酸化室(B)には耐火材を施してないから、この点でも両者は相違している、要之後者は部分的に前者と共通しているだけで、前者発明構成上の必須要件を全面的に具備している訳ではなく、しかも両者間にはその構成並に作用効果上、前述のように重要な相違点があるから、後者は前者の特許権の範囲に属しないものと認める、その他当事者間で論争している点はこの審決をなすについて影響しないから説明を省略する」というのである。しかし、(イ)号図面のもの(後者)と本件特許発明(前者)とはその構成上において全く均等のものであり且つその作用効果もまた同一であつて、後者は前者の特許権の範囲に属していることが明らかであるにかかわらず、これと反対に後者は前者の特許権の範囲に属しないものと認めた右抗告審判の審決は不当であるから、これが取消の判決を求める次第である。

なお原告は当初訴の提起に当り、特許庁係官に被告となるべき者を尋ねて本件訴を提起したものである、ところが後日被告の表示は特許庁長官ではなく、抗告審判における相手方である竹内熙佐男を被告とすべきであることを知り、被告の表示を訂正したものである。

被告訴訟代理人は主文第一項同旨または原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め本案前の抗弁並びに本案に対する答弁として次の通り陳述した。

(一)  本件抗告審判には請求人、被請求人があるから、本訴の提起には請求人である竹内熙佐男を被告となすべきであるに特許庁長官を被告として提起し、後に訴状訂正申立と題す書面により被告の表示特許庁長官より竹内熙佐男に変更する旨申立をなしているが、右は行政機関の名称を誤つた場合と異り、行政機関と私人とでは完全に別人格であつて訴の同一性が存しないことが明らかであるから訴状の補正或は訂正の形での変更は絶対に許されない、当然別訴を提起すべきであり、特許庁長官を被告とする訴は不適法として却下さるべきものである。しかも原告は特許法第百二十八条ノ二第二項の不変期間の徒過を潜脱するために右の如き当事者表示の訂正をなしているのであるから、かかる脱法的行為は絶対許されない、仮に百歩を譲つて本件訴訟手続内において当事者の変更ができるとしても、それは誤記の訂正ではなく、明らかに当事者の変更であるから、実質的に旧訴の取下と新訴の提起を意味するものである。しからば被告竹内熙佐男に対する本件訴は原告の訂正申立書提出の日即ち昭和二十七年五月七日に提起されたものと見るべきであるから、右訴の提起は本件抗告審判の審決の送達ありたる日より三十日の不変期間を徒過した後であること一件記録で明らかである。故に竹内熙佐男を被告とする本件訴も不適法であるから却下さるべきである。

(二)  本案については原告主張の抗告審判のあつた事実は認めるが、その他の主張事実は全部否認する。

三、理  由

被告の本案前の抗弁について判断する。

本件記録によれば原告は当初被告を特許庁長官として請求趣旨記載の審決取消を求める訴を提起したが後に昭和二十七年五月七日提出の訴状訂正申立書により被告の表示を竹内熙佐男と訂正し次で同年四月十四日附訴状補充書においても被告を竹内熙佐男と表示し請求原因の追完補充をしていることが明らかである。ところで元来抗告審判において請求人及び被請求人あるものについては請求人または被請求人を被告とすべきであることは特許法第百二十八条ノ三但書の明定するところであるから、原告が当初行政庁たる特許庁長官を被告としたのは抗告審判請求人である竹内熙佐男を被告として相手取るべきであるのを誤つたものであることは疑いないところである。しかし行政事件訴訟特例法第七条が行政庁の違法な処分の取消または変更を求める訴(同法第二条の訴)において、原告が被告とすべき行政庁を誤つたときに訴の係属中被告を変更することができこの場合には期間の遵守については、あらたな被告に対する訴は、最初に訴を提起した時にこれを提起したものとみなすと規定したのは、もともと訴の被告たるべき者を行政庁としてあつても行政庁は国または公共団体の機関であるから実質的には国または公共団体が当事者の地位に在るのであり、またいかなる行政庁が被告となるべき処分庁であるかについて往々にして原告これを誤認し、これがため出訴期間を経過することあるべきを考慮し、これが不利益を救済する趣旨に出たものであると解する。しかるに本件審決取消の訴は行政庁である特許庁長官が被告となるべきものでなく被告となるべき者は前記の通り特許法において特に請求人または被請求人である旨を明示し以て相手取るべき被告を誤ることのないようにしているのであるから(行政事件訴訟特例法第三条にいわゆる他の法律に特別の定めのある場合に該当する)、本件の訴においては行政事件訴訟特例法第七条はその適用なきものと解するを相当とする。

ところで原告が前記の如く被告を竹内熙佐男に訂正し、爾後同人を被告として訴訟行為をして来たのであるから、同人に対しては訴状訂正申立書の提出せられた昭和二十七年五月七日に本件の訴が提起せられたものと認むべきところ、右訴の提起は本件抗告審判の審決の送達ありたる昭和二十六年十一月二十七日より三十日の不変期間を徒過した後であること一件記録上明らかである。従つて被告竹内に対する本件訴は不適法であるからこれを却下すべきである。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小堀保 梅原松次郎 原増司)

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